コケシ愚行禄

 
 
第5回
 
                              文:コケシドール(G) 蹄沢由美子
 
 
 
 
 
≪ 秋山が来た ≫
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
さて天才ベーシストが去ったコケシドールにやっと“ちゃんとした”ベーシストのメメ男が加入。
 
ようやく人並みのバンド生活を送れるようになったかに見えた。
 
だが、だがしかし。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
翌年1月のある日曜日。
 
 
 
 
 
2度目となった法政大ライブ終了後の楽屋で、俺は幼児並に激しくいじけていた。
 
状況を説明すると、
 
1)当時バンド内の人間関係が最悪だった。
 
2)その流れで録音されたコケシズム第1次録音が最悪だった。
 
3)その流れでつい先ほど行われたライブが最悪だった。
 
4)さらにそのライブ後に宮沢正一さんに話かけにいって上手に喋れなかった。
 
5)自分の年齢を思い出した。
 
 
 
 
 
という訳で、これだけ揃えば普通は泣く。
 
 
 
 
 
俺は当時コケシズムの録音エンジニアをしてくれていた狂気ミキサに、
1)から5)を順番を変え表現を変え、エンドレスに愚痴りまくっていた。
 
話が「やめだやめだ、もう!」と、ついに佳境入った時、突然背後からバカでかい声がした。
 
 
 
 
 
「ず、ずみませんっ!」
 
 
 
 
 
見るとガタイのいい男がふらふらと揺れながら、しかし“きをつけ”をして立っていた。
 
どうやら泥酔しているようだ。
 
そして男は「泥酔者が下手に丁寧に喋ろうとするとこうなる」という感じで大声で喋りはじめた。
 
 
 
 
 
「皆様、おーつかれさまで、ございますっ! こ、こちらにィ、いぬん堂のォ、
う、う、牛戸圭一社長わあっ、いら、いら、いらっしゃいまふでしょおかあっ!!」
 
俺は頭を抱えた。
 
ほらな、どマイナーなことやってりゃ寄ってくんのはこういう訳わかんないのばっかなんだよ。
 
俺はますます落ち込みつつも答えた。
 
 
 
 
 
「社長なら舞台袖じゃないすかね。」
 
「おおおー、そ、そうですかあー。」
 
男はかくんと頷き、ついでに上体も90度に折れた。
 
そしてむにゃむにゃと呟きつつ体を起こし、言った。
 
 
 
 
 
「そ、そりでわですね、しゃ、社長に、ブルースビンボーズの秋山が来たと、お伝えくらはいっ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2ヶ月後の深夜。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺は電車のなくなった名前すら知らない駅のホームで、
ゲラゲラと笑いながらごろんごろんと前受け身を繰り返していた。
 
妄想内では隣で前田日明がサンドバックを蹴り、山本小鉄が腕組みをして睨んでいた。
 
 
 
 
 
秋山公康が「まあまあ、軽く飲みながら今後の打ち合わせでも。」と言ってから5時間後だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
山本小鉄が「おら、もういっちょうー!」と怒鳴ったので、俺はさらに激しく受け身を取ってみせた。
 
 
 
 
 
     (おっしまい)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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