コケシ愚行禄

 
 
第3回
 
                              文:コケシドール(G) 蹄沢由美子
 
 
 
 
 
≪ 俺は便所の壁になる ≫
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
年が明け輝かしい21世紀を迎えた頃、やっとコケシドールに2代目ドラマーが加入した。
 
メタル畑の人だったがいいのだ!
 
奇形児の最後のドラムだってメタルだったのだ!
 
 
 
 
 
とかなんとか言いつつ目指すは法政大学学生会館大ホール。
 
 
 
 
 
このライブが決まっていたからこそ、コミックバンドと呼ばれながらもバンドは続いていたのだ。
 
法政だよ! 学館だよ! じゃがたらだよ、スターリンだよ!
 
テンションは日ごと上がる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
上がりすぎて訳がわからなくなった俺は、ある日社長にこう言った。
 
 
 
 
 
「俺は便所の壁になる。」
 
 
 
 
 
なんのこっちゃい?てなところだが、要は演奏中服を脱いで客席に乱入し暴れまくり、
さらに用意のマジックで体に落書きをさせようというのである。
 
どこから来てどこに向かおうとしているのか、さっぱりわからないパフォーマンスではある。
 
普通ならここで医療機関でのカウンセリング等すすめるところなのだろうが、
 
社長はガハハと笑って
 
「いいじゃん!やんなよやんなよ!」
 
としか言わないのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
当日。
 
 
 
 
 
ドタバタとした出番前、俺は社長の知人キンちゃんに手伝いをお願いした。
 
「えーとですね、プロレスラーのタイガー・ジェット・シンって知ってますか?」
 
「ええ、もちろん知ってますよ。」
 
「うん、それなら話は早いや。
あのですね、アーチストって曲の途中で私が服を脱いで客席に飛び込みますから、
怒り狂うシンをなだめるマネージャーって感じで体を押さえながらついて来て下さい。」
 
「ははは、なるほど!いーですねーー!」
 
よし、これで万全だ!キンちゃんならガタイもいいし、万一変なのが襲ってきても安心だ。
 
 
 
 
 
そしてライブ中盤。
 
 
 
 
 
アーチストがブレイクに入ったところで服を脱ぎ捨て客席へとジャンプする俺。
 
着地!
 
ここでキンちゃんが来るはず!
 
よっし、来た!
 
しかし............
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うーーーおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 
 
 
 
 
キンちゃんは雄叫びを上げて俺につかみかかり、
高々と持ち上げぶるんぶるんと振り回し始めたのだ!
 
へ!!?? な、なんなの!!??
 
 
 
 
 
だがやがて、俺は全てを理解した。
 
やっとのことでキンちゃんを引き離した俺は、
ピンクの女物のパンティー一枚で奴に向かって思い切り叫んだ。
 
 
 
 
 
「それはシン!!!マネージャーじゃなくて!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この直後、今度はベースが脱退した。
 
 
 
 
 
当然、という気がする。
 
 
 
 
 
     (つづいてしまう)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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